ああ!今日も見える

  南武線A駅午前7時31分発の電車。その前から三両目のドア際に、雨が降っても風が吹いても、張り付くように立つ。座席が空いていても、人を押しのけても、その場所が欲しい。そこからしか見えないのだから・・・・。
 二つ駅を過ぎると、いよいよ病院が見える。胸の高鳴りを押さえながら三階の窓を見上げる。その窓に電車を見ている主人の姿があった。
 「ああ、今日も生きていてくれた。」今日もベッドから起きられたのだ。『おはよう』と心の中で叫ぶ。
 あと何日、こんな時間、こんな朝があるのだろうか。だれにも分からない。
 主人がベッドから起きられなくなり、窓から電車を見る主人と会えなくなったら、だれが何と言っても40年近い私の勤めにも終止符を打とう。そして、看病と介護に専念しよう。
 胃や肝臓のガンと闘っている68才の主人と、それを見守る69才の私。毎朝、病室の窓に立つ夫を電車の窓から確認する”時間”は、私にとって命を賭けるほどの一瞬なのです。
 二人とも青春時代をお国に捧げ、働き続けた50年余。結婚式も出来なかった。
 それだけに「80才までは生きようね」と、老後に楽しい夢を描いていたあなた。二人で夢見た老後の楽園でも、私は必ずあなたの後を、ついていきますからね。