| 「ワイングラス一個」の気配り |
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料理研究家の飯田深雪さんがパリに行って、ある家に招かれた時の話である。
手作りの料理はもちろんだが、年代を経た食器や什器が素晴らしかった。なかでもワイングラスが素敵だったのだが、6人用の食卓なのに4客分しかなく、他は別のグラスであった。しかし、その理由を聞いて、さらに素晴らしいと感じたという。
「先日、客があってこのグラスを出したところ、その客も素晴らしいとほめてくださいました。ところが、ちょっとしたはずみにその方が落とされ、グラスが割れてしまったのです。お気の毒なくらい狼狽されました。その時、主人がいきなりニコニコ笑いながら、自分の手に持っていた同じグラスを床に落として割って見せました」
つまり、実際には大変貴重なものだが、「このグラスはなんでもないものだから心配なさるな」と口で言うだけでなく、なんでもないように割って見せて、相手の心を安らかにしようとしたのです。マナーはもともと、人に不愉快な思いをさせないことだから、これぞまさにマナーの神髄と言えるでしょう。
態度で示す思いやり |