古いアイロン

 インドシナ半島カオインダの難民キャンプに、両親や兄弟姉妹は死んだのか殺されたのかもわからない一人の子供がいた。一言も発せずに空を見つめたままで、病気で衰弱しきっていて、流動食も薬も受け付けないので、国際赤十字の医師団もサジを投げた。
 その瞬間から、そこで働いていたボランティアの青年ピーターが特別の許可を得て、昼も夜もその子を抱き続け、その子の頭を撫でたり、接吻したり、耳元で子守歌を歌いながら、全身を蚊に刺されても動かずに二日二晩が経った。
 とうとう三日目に反応が現れた。ピーターの目をジッと見て、その子が笑った。
 自分を愛してくれ、大事に思ってくれる人がいる。自分はどうでもいい存在ではなかったのだと、絶望が希望に変わった時、子供は食べ物や薬を受け付けるようになったのだ。
 回復が確実になった時、そこの主任は「愛は食に優る。愛は薬に優る。愛こそは最上の薬なのだ。人々の求めるものは、それなのだ」と深い声で言った。
 こんな話が犬養道子著『人間の大地』に出てくるが、人間は泣くものとともに泣き、喜ぶものとともに喜ぶ相手を必要としている。その時、自他ともに生かされているのです。


心を左右する"愛のかたち"