涙いっぱい

   ぼくのお母さんはすぐに泣く。テレビを見て、本を読んで、映画を見て泣く。涙もろいというか、感動しやすいというか、とにかく泣くのが大好きらしい。そんなお母さん、この前の誕生日の日、いままでで一番ひどく泣いたんだって。
 6月11日に晴れて40歳になるお母さんに、ぼくは始めて誕生日プレゼントを渡す計画を立てた。
 とは言っても、ぼくは寮生活をしているから直接プレゼントを渡すことはできない。そこでお母さんには内緒で、花屋さんに花束とカードを6月11日に届けてもらうことにした。6月5日〜7日は県の高校総体で外泊することができたので、その時に花屋さんに「内緒ですよ」と約束して準備は万全・・・のはずだったんだけど。
 いよいよ帰寮する6月7日になって大げんかをしてしまった。ムカムカ、イライラして、いつも寮まで送ってくれるお母さんの車を無視して、一人で電車に乗って帰ったんだ。
 6月11日になった。その間ぼくは、家に一度も電話すらしなかったから、お母さんはイライラ半分ソワソワ半分だったって言ってた。そんなお母さんの前に大きなバラの花束とカードを持って花屋さんが登場!その瞬間、何かがはじけたようにお母さんは泣き出したんだって。勝手に涙がこぼれてきたんだって。その日に実家のお店を手伝っていたから、お客さんがたくさんいたのに、声をあげて泣いたんだって。それを見ておばあちゃんもホロリ、お客さんもホロリ。涙・涙の誕生日、目のまわりはまっかっか。
 その夜お母さんから電話があった。とてもうれしそうな声で何度もお礼を言ったあとに、「なんであの日あがん怒ったっちゃろうって後悔しとるよ、ごめんね」って突然涙声になるから、「ううん、お母さんのせいじゃないとかよ。誕生日おめでとう」そう言って電話を切った。いままでで一番照れくさい5分間だった。
 今ぼくがプレゼントした花束のリボンがお母さんの部屋に飾ってある。きっと、お母さんはそのリボンを見てときどき泣いているに違いない。