カラスの心

  3年前のある日、自宅前の道路にカラスの子供が落ちていた。このままでは自動車に轢かれてしまう。すぐ家の中へとりこみ、近所の動物病院に連れて行った。診察の結果右足骨折とのこと。ほおっておくわけにも行かず、風呂場で飼うことにした。カラスはすぐ我々家族に慣れ、手乗り文鳥の如くヒザの上に乗ったり、おしりをつついてエサの催促をしたりするようになった。
 小さかった体もたくましくなってきた時、このまま家で飼っておくべきか野生に戻すべきか迷った。いよいよ決断し、2階のベランダから飛ばすと水を得た魚のように勢いよく飛んで行った。ホッとする反面何かさみしい気がした。
 その翌日、2階のガラス戸をコツコツと叩く音がする。もしやと思っていて見ると、案の定、あのカラスが挨拶にやってきた。ガラス戸をあけると部屋の中に入ってきて私の体のあちこちを突っつく。しかし、ここで甘い顔を見せてはカラスのためにはならない。心を鬼にして外に出したが毎日やってくる。ベランダでエサぐらいはいいだろうと思い、エサを出すようにした。1ヶ月経つと姿を見せなくなった。自分でエサを見つけられるようになったのだろう。
 それから半年も経った頃、近所に広場でたくさんのカラスが、けたたましく鳴いて舞っている。ベランダに出てみると、一羽のカラスが手すりにとまり、何かを訴えるように鳴いている。何事かと思って見てみると、一羽のカラスが地面に落ちて野良猫が狙っている。それを牽制するかのようにカラスが鳴いているのであった。早速、その場へ行くと、地面に落ちたカラスは息絶えていた。そして、そのカラスこそ間違いなく短い間だったが、私の家にいたあのカラスであった。抱きかかえて家の中に入ると、安心したのかカラスたちはどこかへ飛んで行ってしまった。あのカラス達は、死んだカラスが私のところで飼われていたことを知っていたのだ。最後は誰に頼ればいいのかも・・・。それだからこそ、仲間の死を私に知らせにきてくれたのだ。あの大騒ぎは、猫から死体を守るという他に彼らの葬式でもあったのだろう。もちろん、カラスのしたい埴輪に葬った。
 そして今、死んだカラスの身内らしい小さなカラスが、我が家へエサをもらいに来ている。私の手から直接エサをついばむほどの慣れようだ。先日も、庭で植木の手入れをしていると、肩に止まって頭を突っつくという「悪さ」までするようになった。